花と雪

マイ・ショートストーリー。短編小説やおとぎ話たち。

海に降る雪

ふと気付いた。最近、泣いてないな。と。 窓の外には今年一番の雪が降り積もっていた。別に泣かないと決めたわけではなく心が乾いたなんて格好いいものでもなくドラマやドキュメント番組を見れば泣いちゃうけどそういう意味の泣くということではなく誰かを想…

悲しみの温度

繁華街から少し外れた場所にその店はあった。 隠れ家みたいな小さなショットバーで、 その店のマスターは占いが得意だった。 初めて友人のマリに連れられてその店を訪れた時、 マスターはマリの話を一通り聞いた後に彼女の手の平を握って手相を見始めた。 正…

真夜中の冷蔵庫

人は生まれてからいったい、何人の人と別れるんだろう。ふと、そんなことを考えてみたりしたけど、すぐやめた。そんなことより、いつもよく行く居酒屋さんで今日も食べて来た「カリカリふわふわ唐揚げ」という名前の唐揚げ。 その唐揚げの作り方の方が今の私…

ショパンの調べ

雨音はショパンの調べ。というから ショパンのCDを買ってみた。 クラシックなんて全然わかりもしないし、ショパンなんて音楽の授業の時間に聞いたことはあるけどこくりこくりと居眠りしてしまってたし、 何がどう雨音の調べなのか? それが知りたくて買っ…

オムライス

後にも先にも、お弁当というものを誰かに作ったというのは彼だけだったかもしれない。 彼は私が18の頃に通い始めた専門学校の一つ上の先輩だった。 一つ上の先輩といっても、専門学校ということもあって、彼は実際には私より四歳年上だった。 一度企業に就職…

はんぶんの月

月は毎日、形を変える。 まあるくなったり、細くなったり、半分になったり。 「その理由はなんでか知ってるか?」 電話の向こうで彼は、ある晩そう言った。 それは潮の満ち欠けによって。 ありきたりのことだと思いながら私がそう言うと 電話の向こうで笑い…

賞味期限

夕方のスーパーマーケットで私は何度も足を止められた。あれこれ食材をカゴに入れる私の横で度々、彼女のストップがかかったからだ。 「それ、賞味期限が近いんじゃない?」 確かにそうだった。空腹だったということもあって陳列している商品を品定めもせず…

できそこないのマジシャン。

そういえばこないだ、あのテレビ見た?タクちゃんはそう言って両手をくねくねと動かした。ああ、見たよ。見た見た。私が身を乗り出してそう答えると、タクちゃんは「あれはすごいよな」と言って関心しながらくねくねと開いた手の片手で焼酎のグラスを持ち、…

甘くないココア

「甘くないココアって、スカスカした味だよね」助手席でココアの缶を両手に握りしめるようにして彼女はそう言った。 「すかすか!?」僕は少し意標を付かれたように彼女の方をちらりと見た。ハンドルを握ってるだけで精一杯だった。 この所の僕といったら、…

おとぎ話のはじまり

何年か前に趣味で書き溜めていたショートストーリーをここに置かせて頂きます。 日々の生活の中で、時々、ちょっぴり疲れてしまう心が ほんの少しでも、あたたかくなれますように。 そんな、私のおとぎ話たちです。 読んでいただけたら嬉しいです。