花と雪

マイ・ショートストーリー。短編小説やおとぎ話たち。

ショパンの調べ

雨音はショパンの調べ。というから
ショパンのCDを買ってみた。
クラシックなんて全然わかりもしないし、ショパンなんて音楽の授業の時間に聞いたことはあるけどこくりこくりと居眠りしてしまってたし、
何がどう雨音の調べなのか?
それが知りたくて買ったCDを聞いてみたものの、私には屋根を叩く雨の音も、雨樋をしたたるその音も、
ショパンのその曲の中に見つけることはできなかった。
雨の中にショパンなんて、ちっとも聞こえなかった。

そんな十代。



誰かと一緒に見た映画の中で流れていたあの曲。
それもショパンだった。
有名なあの曲。
そう、ショパンの「別れの曲」。
十代の頃に買ったショパンのCDの中にこの曲も入っていたなぁ。
そんなことを思い出しながら私はその映画を見ていた。
その映画を一緒に見た誰かとも、やがて、さよならのラストシーンを迎えてしまって
あの人は元気かな?
私達はどうして終わってしまったのかな?

そんなことを思って、たまにほんのすこし、すこしだけだよ
僅かに哀しくなった。

泣いてないよ、まぶたは濡れていない。
だけど、なぜだろう、
せつない、かなしい、いやだよ。
傘が重くて持ちきれない。

そんな二十代。




心の奥で降りそそぐあの曲。
別れの曲。

懐かしさと、遠い記憶が雫のように降りそそぐ。
ぽたり、ぽたりと、心に落ちる。

出会いと別れと
別れと出会い。
いくつもくりかえす、出会いと別れ。

涙の数が多くなったような気がする。
もしかして、雨音は涙の調べ?
ショパンを聴きながら、そんなことに気付いた
三十代。


でも、傘があるんだよね。
そう思いながら傘を広げて私はくすりと笑った。

一緒に笑ってくれる友達。
一緒に泣いてくれる仲間。
私にはそんな傘がありました。


くるくると傘を回してくれる。そして雫がきらきらと飛び散る。
悲しいけど、つらいけど、くるしいけど
でも大丈夫。
私にはそんな傘があるから。



今夜も雨は降り続ける。
きっとショパンは微笑みながら
やさしく、
こう奏でている。


その傘を大切にしなさい。